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薬局・薬剤師が負う法的責任とは?

更新日:2023年6月20日


薬局・薬剤師が負う法的責任

ふとしたことから患者様とトラブルになってしまったり、クレームが来てしまった。

こんなを経験をお持ちの先生方はいらっしゃいますか?日頃から誠心誠意、業務に取り組んでいても、残念ながら100%の安全はありません。


今回は薬局・薬剤師が負う法的責任について、私たちが知っておくべきこと、準備しておくべきことなどを薬剤師・弁護士としてご活躍されている赤羽根先生に伺いました。ぜひご覧ください。

 

【PROFILE】

赤羽根 秀宜先生

中外合同法律事務所 パートナー 薬事・健康関連グループ代表


1997年に薬剤師免許を取得し、薬局での勤務を経て2009年弁護士登録(第二東京弁護士会)。日本病院薬剤師会顧問や帝京大学薬学部非常勤講師他、幅広くご活躍中です。

 


 

目次

 

なぜ知る必要があるのか

薬局・薬剤師が負う法的責任についてですが、まずよくあるケースとして過誤が起こった場合や、過誤ではないのに過誤だと疑われている場合など、どの薬局でも経験されたことがあるような内容が、実際には本当に重いトラブルになり訴訟に発展することがあります。


トラブルやクレームというのは、前提としては起こらないよう注意すべき事ですが、万が一起きてしまったときにはどう対応するのか、またどのような責任が発生するのか、薬局・薬剤師は予め知っておく必要があると思います。


先日も、併用禁忌薬を見逃したということで管理薬剤師が被告として訴えられたという報道がありました。薬剤師が薬の取り違いをしたのではなく、併用薬を見逃した、疑義照会をしなかったということでの訴えだったのですが、処方医と管理薬剤師に慰謝料など1100万円を請求し民事裁判を起こしたという内容でした。


処方された薬は「アザニン」と「フェブリク」で、患者さんはこのことから17日間入院したそうなのですが、結果としては和解に至り解決したそうです。


裁判にまで発展するケースはそれほど多くないですが、トラブルやクレーム数というのはまた違い、本人同士で話し合って解決する例や、弁護士が介入して裁判はせず示談で解決するという例もあります。


例えば、患者さんとの間にトラブルが起きて「これは罪になりますよね」「警察に伝えます」「保健所に報告します」などと言われたときに、本当に罪にあたるのか、薬剤師免許はどうなるのか、薬局の運営は続けられるのか、分からないと非常に不安になりますよね。取るべき対応を冷静かつ適切に行うという意味でも、法的責任を理解しておくことは重要だと考えています。


薬局・薬剤師が負う法的責任

刑事責任

まず、法的責任の中には3つの責任が存在しています。

①刑事責任 ②行政責任 ③民事責任

この中で調剤過誤などを起こすと問われる可能性があるのは刑事責任、行政責任というものです。国家から刑罰を受ける刑事責任では業務上過失致死傷罪、行政からの刑罰では免許取消、業務停止など、いずれも非常に重い罰を受ける可能性があります。


しかし健康被害が起こらなかったような調剤過誤にまで、刑事責任に問われるかと言うとその可能性は低いです。刑事責任というと非常に重い責任なので、社会的に見てこれは重大だというケースになると責任が問われるということになります。


では次にどういったケースが重大なのか。これは、

①過失の態様 ②被害の重大性 ③社会的影響

この三つの観点から判断されるということになっています。


過失の態様というところで言うと、例えば「単純ミス」などがあげられます。ミスがわかっているのに放置してしまったという例などです。また被害の重大性という点では、患者さんが亡くなってしまったケースなどがあげられます。


しかし今、調剤過誤・医療過誤に対して個人が刑事責任を取るという流れは果たして本当に正しいのかと議論にもなっています。


多くの薬剤師が医療安全の観点から日々考え対応していますが、その中で万が一ミスが起こったときには、個人の責任にするのではなく、その過程に問題があるのではないか、そこを直しましょうという考えからです。よっぽど悪質な場合は別ですが、個人を責めるということは適切なのか、厚労省などでも現在研究されているところです。


但しいずれにしても法的責任については理解しておく必要があり、過誤が起こったときに「罪になってしまうかもしれない」このことで頭がいっぱいになってしまうと、やはり取るべき適切な対応ができなくなってしまいます。


刑事責任にまで発展してしまうのはよっぽどのことだという事を理解して、まずは冷静に対応していくといいと思います。


行政責任

次に行政責任についてですが、これも刑事責任と同様で、簡単に責任を追及されるものではありません。


行政責任がどういう場合に問われるかというと、

・罰金以上の刑に処せられた者

・薬事に関し犯罪又は不正の行為があつた者

・薬剤師としての品位を損するような行為のあつたとき

とされています。


過誤があったらすぐに責任を問われるか、業務停止や免許取消処分を受けるかというとそうではないということです。罰金以上の刑に処せられたとき、つまり刑事罰を受けたとなると社会的影響も大きく、業務停止や免許取消となりますが、そこまで重い内容でなければ行政責任を追及される可能性は低いと言えるでしょう。


よくあるケースとして、「保健所に報告します」「行政に連絡します」と患者さんから言われることがありますが、薬局としては「それはやめてほしい」と言ってしまうんですよね。


トラブルとなっている患者さんにやめてくださいと伝えたところで本当に止めてもらえるかは分からないですし、やめてもらうために通常の賠償額よりも大きい賠償を払うなど、そういったことになってしまうと、やはり適切じゃないと思います。


実際のところ行政に報告されたとして、行政の方も本当に問題がある場合は調査に来ますが、それが過誤の範囲だということになれば処分はされません。


悪質でなにもルールを守っていなかった、処方箋医薬品を処方箋なしで販売したなど、そういうことになれば当然処分を受けますが、本当に過誤が起こってしまったという範囲内で、健康被害も大きくないということであれば、これからはきちんと対応してくださいという話だけで何か処分を受けるということはありません。


万が一このようなケースが起こったときに法的責任を理解していなければ、行政や警察に報告されるのが怖いからと誤った対応を招きかねず、冷静に対応することができません。まずはトラブルが起きないよう最善の注意を払いながら、万が一起きてしまったときは冷静に行動しましょう。


薬局・薬剤師が負う法的責任

民事責任

次に民事責任についてです。

民事的な問題は、患者さん(被害者)に対して、損害を填補しなければいけない、被害があったら被害額を賠償しなければならない責任ということです。


この賠償というのは金銭支払義務ということになるのですが、万が一過誤が起こったときに、民事責任では金銭支払義務の発生だということを理解しておくことが重要です。


例えば患者さんご自身が過誤により入院してしまった、またお子さんなどご家族が入院してしまったという時には、非常に腹を立てていたり、許せないという感情があったりして色々なことをおっしゃるかと思いますが、対患者さんとの関係で法的に問題を解決するとなると、最終的には金銭で解決するしかないということになります。


もちろん誠意を尽くして謝罪をしたり、再発防止に努めることも重要ですが、民事訴訟の最終的な解決方法としては入院したことを金銭的に評価し、それを賠償するという方法になります。


あってはならないことですが、患者さんが亡くなってしまった場合も、人の命は本来お金に変えられるものではないですが、万が一起こってしまったら、やはりそれも金銭的に評価せざるを得ないということになります。金銭にかえて賠償をすることで、最終的にはそれでご理解をいただく、ご納得いただくしかないということも意味しています。


つまり万が一過誤が起こってしまって民事責任を追及されたときには、最終的には金銭で解決するしかないという点を、薬局・薬剤師のみなさまにはご理解いただき、その上で、じゃあどうしましょうかという話を、対患者様にしていくという流れは重要なポイントになると思います。


ケースによってはもちろん刑事罰・行政罰という処分もあるのですが、民事では金銭の支払が最終的な解決方法というところで、対患者さんと対応していく必要性があることを頭に入れておいてください。


民事責任が発生するケース

では次に、どういった場合に薬局・薬剤師に責任が発生するのでしょうか。


自分がミスをしてしまって患者さんに何か問題が起こってしまった場合と、自分に落ち度は無いけれどクレームが来てしまったという場合があるかと思いますが、このふたつのうちどちらに当たるかは、まず整理しなければならないところです。


どちらのケースも最終的にはご理解ご納得いただけるよう求めるわけですが、自分たちに責任があるのか否か、一括りにクレーム・トラブルと言っても内容は全然違うので、どういう場合に責任が起こるのか、また責任の範囲はどういうものなのかを整理していきましょう。


民事責任がどういう場合に発生するかというと、

・過失(調剤ミス) ・因果関係 ・損害(健康被害)

この三要件が全て揃った場合に、損害賠償請求の権利が患者さん側に発生します。


損害賠償請求をされたとして、誰に金銭支払義務があるかというと、ミスをした薬剤師個人、法人の開設者、管理薬剤師、この全員です。この全員が損害賠償をしなければいけない義務を負います。


ミスをした薬剤師、開設者、管理者というのは、それぞれミスを防ぐための努力を当然しなければいけないですし、ミスが起こった場合にも協力して対応していかなければなりません。


薬局・薬剤師が負う法的責任

薬剤師の過失

民事責任が発生する条件のひとつ、「過失(調剤ミス)」ですが、過失というのはすなわち「義務違反」だと考えられています。薬の取り違いというのは「正しい薬を出す義務」に違反したということになり、それ以外にも「説明をきちんとしなかった」、「疑義照会をしなかった」なども違反になります。


最近は服薬期間中のフォローアップが話題ですが、フォローアップすべき人だったのに適切にしなかったとなると、これも義務違反になります。義務違反によって患者さんに健康被害が起こると、薬局・薬剤師側に過失があるとされ損害賠償をしなければいけないということになります。


但し、義務違反にあたるかどうかの判断は難しく、薬を間違えたというシンプルな内容以外にも、疑義照会をどういう場合にしなければならなかったか、どこまで説明すべきだったか、これらの判断は一義的に決められるものではありません。


昭和36年に最高裁で出た判決では、「いやしくも人の生命及び健康管理するべき業務に従事するものはその業務の性質に照らし、危険防止のために実験上必要とされる最善の注意義務を要求される」という内容があります。


つまり義務違反にあたるかどうかの判断は難しくとも、薬剤師が負っている義務という点については、一般的に薬剤師みんなやっているから同じでいいという意識ではダメで、最善を尽くし患者さんに対応することが求められています。


それができていると言えて初めて、義務を尽くしたとされるので、厳しいですがそこも理解もしておく必要があります。


対物から対人へという流れになっている中で、薬の取り違いなどの過誤だけではなく、服薬期間中のフォローアップや疑義照会、聞き取り間違い、お薬手帳の確認不足など、そういったミスも義務違反になり得ることを理解をして、常に最善を尽くしておくということが重要です。


特に対人業務においては、記録を残しておくことが非常に大切で、例えば投薬後のフォローアップをしたのだけど記録が残ってない、こんな状況だとフォローアップしましたと言っても、記録が残っていないので証明できず、場合によってはやっていないと判断されてしまいます。こういったことも踏まえ、対人業務においては記録を残しておくことが大切です。


因果関係はあるか

また民事責任が発生する要因には「因果関係」というのも必要で、例えばバップフォーとバソメットを間違えたという事案で患者さんが41日後に亡くなったという例があります。ただこの患者さんが96歳の女性だったので、間違いはあったけど亡くなったこととの因果関係があるのかが問題になりました。


因果関係の問題って、難しいです。患者さんがこれは損害だと言っても、本当にそれが全て損害にあたるかどうかは分かりません。


この96歳女性のケースでは、最終的に因果関係があるという判決で2500万円の損害賠償の支払いを命じられたわけですが、例えば他に、アトロピンを誤って1000倍量投与してしまったという事例もあります。


患者さんは後遺症が残ったとのことで7100万の損害賠償をしましたが、結論としては確かにミスもあったし損害もあった、健康被害もあったけれど、364万円の損害までしか認定できませんという判決結果で、賠償を一部しか認められませんでした。


患者さんの訴えと、それに対し本当に因果関係があるのかという点は慎重に考えなければいけません。この視点が抜けてしまうと、初期対応などで焦って「うちの責任です」「保険で全部賠償します」などと言ってしまったりするのですが、保険会社に確認したら「因果関係が認められないので保険は支払えません」ということもあり得ます。


うちの責任だと認めたにも関わらずお金は払えませんとなると、後から余計に問題が大きくなってしまいます。因果関係の有無は、最終的には専門家の判断や保険会社の意見も聞いて判断しなければならないので、初期対応の段階で焦って過失を認めたりせず、状況を冷静に判断して、因果関係が認められるかどうかを考えながら対応していかなければなりません。


損害の有無

最後に「損害」というものも民事責任では必要になります。


裁判例を見ると、薬を間違ってしまったけど患者さんが飲む前に気付いた、もしくは薬局からすぐ連絡をして飲むには至らなかったという例があります。しかし患者さんとしては適切な医療をその間受けられなかったから、その損害賠償を請求したという内容でした。


実際は間違った薬を飲んでいないし、適切な医療を受けられなかった期間も短期間ということで、この裁判での請求は否定されています。


間違った薬を出してしまったという事実はあるので、倫理的には謝罪しなければいけない、誠意をもって対応しなければならないのは当然ですが、それと法的に賠償しなければいけないかというのはまた別の議論なので、損害がなければ賠償はできないという意識も持っておく必要性があるかと思います。


薬局・薬剤師が負う法的責任

薬局・薬剤師が負う法的責任まとめ

ここまで薬局・薬剤師の負う法的責任についての解説でしたが、いかがでしたでしょうか。対物から対人業務へと薬剤師としての業務が変わっていく中で、トラブルやクレームの問題は避けて通れない時代です。


きちんと自らの負う法的責任について理解し、冷静な判断、対応をとることだけでなく、服薬期間中のフォローアップなどではきちんと記録を残しておくこと、何かあった際には疑義紹介をすることなど、日頃から万が一に備えておくことも大切です。


今日からすぐにできること、ぜひ初めてみてください。


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