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リフィル処方箋制度に対する薬局・薬剤師の準備と心構え


令和4年(2022年)の調剤報酬改定で、ついにリフィル処方箋制度が導入されました。

しかしまだ制度は始まったばかりで、扱ったことのない方、実態をつかめないでいる方も多いのではないでしょうか。


今回は、リフィル処方箋制度が導入された今、薬局・薬剤師としてどのような準備が必要なのか、またどういった心構えをしておくべきかを解説します。

 

目次

 

リフィル処方箋制度とは

リフィル処方箋制度の概要そのものは、もうご存じの方も多いかと思います。

今年度の調剤報酬改定より導入された新制度で、医師の定めた一定の期間・回数であれば、診察を受けなくても繰り返し処方箋を利用し、薬を受け取れる制度のことです。


海外におけるリフィル制度

日本ではまだ導入されたばかりの制度ですが、欧米ではすでに導入されている国も多く、その存在は広く知られています。


アメリカでは1951年、世界に先駆けてリフィル制度がスタートしました。

現在、制度の内容はそれぞれ異なるもののイギリス・フランス・オーストラリア・カナダなど各国でリフィル制度が導入されています。


一方で、ドイツ・日本・韓国ではこれまでリフィル制度がありませんでしたが、今回の調剤報酬改定を機に日本でも新たにリフィル制度がスタートしました。


優れた日本の医療保険制度

では一体なぜこのタイミングでリフィル制度が導入されたのでしょうか。これには、日本の医療保険制度の特徴が関係していると考えられます。


まず日本は国民皆保険であるということです。アメリカは公的な医療保険制度がなく、無保険の場合かなり高額な医療費を負担しなければなりません。すべての国民が公的医療保険に加入をしているということは、他国との大きな違いです。


そしてもう1つの特徴は、フリーアクセスで医療を受けられる点です。何の制限も受けずにどの医療機関でも、どの医師にでも自由に診察・治療を受けられるという点も、実は世界の国々と異なります。私たちにとっては当たり前に感じることでも、世界を見ると最初に受診しなければならない医療機関が指定されているというケースもあるようです。


最後に、現物(医療サービス)の給付という点も特徴の一つです。

診察を受けたあと、注射や手術、また薬を投薬されることなど、医療サービスを窓口での一部負担金のみで受けられます。


こういった特徴が日本の医療保険制度が優れていると言われている理由です。

(出典:日本医師会HP 日本の医療保険制度の優れた特徴 より)


そんな中で医師法の第19条に、このような規定があります。

 

医師法(昭和23年法律第201号)(抄)

第19条 診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。

 

これは、患者様から診察・治療の希望があった場合、医師は必ず受けなくてはいけないという内容です。つまりこの19条を元に、医師は大きな責任を負っていると同時に大きな権限も持っていると言うことが分かります。



リフィル制度導入の背景

今回のリフィル制度の導入には大きく分けて二つの背景が存在します。1つは、医療費の削減。そしてもう1つが、医師の働き方改革です。


日本の医療保険制度の特徴でもあるように、国民皆保険であるが故、いま国は莫大な医療費を負担し続けています。明治薬科大学臨床薬学部門が発表した論文「リフィル処方制度導入がもたらす経済性の効果予測」において、リフィル制度が導入されることによって医療費は総額1556億円、保険負担額で1089億円が削減できるという試算が出ています。また医師の労働時間は、1カ月当たり約6~12時間の軽減ができるという試算です。


つまりリフィル制度の導入によって診療費が減ることは間違いなく、その分生産性が上がり医師の負担軽減が実現されるということが、制度の背景として存在しているのです。


また令和4年4月の調剤報酬改定を受けて、岸田首相が「リフィル促進」を明確に表明し、「リフィルは改定の目玉であり、周知・広報の徹底を」という発言が鈴木財務相からもありました。このように今、リフィル制度は国の方針の中でも大きな注目を浴びており、様々な取り組みが開始されています。


PHARMACY NEWSBREAK 3月23日の記事では、全国に多数の医療施設を展開する徳洲会が「リフィル処方箋は患者の希望があれば出す。」と表明した旨の発表がありました。また原則として、徳洲会はこれまで院内処方の方針でしたが、薬剤師の外来負担を軽減し入院対応に注力させる観点から、院外処方を徐々に増やしており、全病院の処方箋に占める院外の割合は18年末で約32%だったところを、21年度上半期には42.5%まで上昇したという動きもあります。


診療費という点で病院側はマイナスになるのですが、それよりも院内薬剤師や医師の負担を軽減し、できる限り生産性を上げ、より患者様に注力するという方針が出されています。


また、弊社が独自に行った日本病院会関係者からのヒアリングでは、徳洲会はじめ総合病院では、リフィル処方箋の導入が積極的に広がる可能性が大きいという見通しが立っています。


総合病院として高度な医療を備えている病院は、軽度かつ重篤ではない患者様の外来をリフィル処方箋を使うことによって減らすことができるのではないかという見解です。生産性と効率を上げ、本来の総合病院としての機能を可能にしていこうという思惑が病院の中で存在しているように考えられます。


そして医師の働き方改革という点においても、リフィル処方箋を運用させることによって医師の生産性を上げ、効率化を図りながら本来の機能を果たすという動きが今後出てくると考えられます。


リフィル処方制度導入で変化する事

その結果として何が起きるかというと、軽度な疾患を持つ方々が総合病院から離れていくという可能性が考えられます。リフィル処方箋は症状が安定している患者様のみに出されるものですが、とは言ってもやはり自身の状態をこまめに診てもらいたいと考える方もいらっしゃいます。


これまで多くの患者様が総合病院に集中していたという状態から、リフィル処方箋の導入により、一定数の方は総合病院ではなく近隣のクリニックに通院先を変更するという、大きな動きが予測されているのです。


そして総合病院からクリニックに患者様が動くと、その分クリニックの医師も大変になってきます。医師法第19条により、患者様の診察や治療の希望を拒むことはできないので、効率や生産性を考えると当然の流れとしてクリニックの医師もリフィル処方箋を扱いたいという流れが出てくるのです。


総合病院からリフィル処方箋が出されるようになり、患者様の一部が他のクリニックに流れてクリニックでも患者様が増えた結果、そこでもリフィル処方箋が出される。この流れを考えると、つまり総合病院の門前であろうが、クリニックの門前であろうが、どの薬局においても既に対岸の火事という話題ではなく、しっかりと自らの薬局に起こることとしてリフィル制度の流れを捉え、チェックしておく必要があります。


患者様からのニーズ

リフィル処方箋は、体調の安定した慢性疾患患者や、高血圧や脂質異常症、糖尿病、高尿酸血症といった生活習慣病に使用される薬が対象になります。


総合病院から周辺のクリニックにリフィルの波が広がり、対象になるのは安定した慢性疾患の患者様、処方される薬剤もある程度予測が付くので、このことを逆に考えると、対象となり得る患者様に対してリフィルになる可能性、さらには医師に対して、リフィルの提案を薬剤師・薬局側から行うことも、ひとつの方法です。


中医協の調査では、患者様側は50%を超える割合でリフィル制度を利用したいと考えていることが分かりました。リフィル処方箋の仕組みを利用したいと思う場合として挙げたのは、「症状が長期に安定しているとき」に約75%、「忙しくて診察に行く時間が確保できないとき」に約60%という結果です。世間でよく言われている、総合病院では待ち時間2時間、診察3分といったところを、この調査で色濃く結果に反映されているのではないかと考えられます。


さらに「リフィル処方箋で薬の交付を受ける場合に一回目に行く薬局」という調査では、「自宅や職場の近くなど生活圏の中にある薬局」という回答が約55%と最も多く、「医療機関の近隣にある薬局」は30%という結果でした。同様の調査で「2回目以降に行く薬局」でも、やはり「一回目に利用した薬局」が65%に上り、最も多い答えです。


つまり、これまで言われてきた立地の優位性という部分は、今や大きく求められておらず、リフィル処方箋をお持ちの患者様が自薬局を選んでくれた場合には、継続的に通って頂ける様、しっかりと信頼関係を構築する必要があります。




薬剤師が準備するべきこと

では実際に、薬局においてどのような準備が必要になるのでしょうか。


まずは薬局周辺の病院にどんな患者様がいるのか、またその病院ではリフィル制度に対しどのような表明をしているのかという点について、アンテナを張り情報を集めましょう。


総合病院でリフィル処方箋が出ているのであれば、近隣のクリニックにも患者様が増え、リフィル処方箋の枚数自体も増える可能性があるため、薬局でもしっかりと準備と心構えを行う必要があります。またリフィル制度を取り巻く流れについて近隣クリニックと意見交換をし、どのような対応を行うかという点も話しておく必要があるでしょう。


そうなると、重要なのは医師との関係性をどれだけ薬剤師・薬局が築けているかということです。実際にあなたの調剤薬局スタッフは、様々な薬局様とお話をさせて頂く機会がありますが、門前のお医者様と直接話をしたことがないという薬局もあります。服薬情報提供も、2の算定はあるけど1の算定は一切ない、お医者様との関係性を考えると逆にお医者さんに叱られてしまうのでは、という不安もよく耳にします。


しかし、薬局・薬剤師は今回の調剤報酬改定や患者のための薬局ビジョンの実現のため、また地域包括ケアシステムにおける一翼を担う存在であることは間違いありません。さらにハブ薬局構想という新しい概念も出てきており、いわゆる情報の中心になるのが薬局であるべきという、大きな方針が出されているのです。


つまり、もう薬局はただ患者様を待っているだけの時代ではなく、積極的に動いていかなければならない時代なのです。地域における情報のハブとして役割を果たせる薬局が、これから勝ち残る薬局であり、特にリフィル処方箋について考えた時はしっかりと周辺の病院やクリニックの動向を見ながら、意見交換ができる関係性を作っていかなければならないのです。皆さんの薬局ではどうでしょうか。


医師からも信頼される薬局とは

例えば皆様の薬局が、地域支援型で情報提供も含めて様々な要件を満たしていても、選ばれる薬局になれるかは別問題です。また本来は選ばれるのを待つのではなく、薬局側から働かなければなりません。


今回の調剤報酬改定で、かかりつけ薬剤師本人でなくても連携した他の薬剤師も対応ができるようになりました。つまり国の方針としては、「かかりつけ薬剤師」から「かかりつけ薬局」化を求める流れに変わってきています。そうすると医師の方も、かかりつけ含め地域支援体制加算などどれだけの算定要件を持っている薬局なのかという点は当然チェックされます。薬局の経営において「加算」は大きなファクターになっていきますが、周りから見た時にこの薬局はどういう薬局なのかを示す重要なサインでもあります。


また何より、医師からの信頼を勝ち取る上で欠かせないのが投薬後のフォローアップです。患者様の服薬情報の一元的継続的把握とそれに基づく薬学的管理・指導の重要性はすでに周知となった事柄です。


今回のリフィル処方箋で明確になっているように、タイムリーな情報提供を処方元に行い、また必要があれば受診勧奨する、そのためには患者様の情報をきちんと把握していなければなりません。これが出来なければどんなに基準を満たしていようが、実際にリフィルを受けた時に信用を失くしてしまいます。


そしてもう1つの大きなポイントは、指導内容していることの担保や、それがデータとして残されているかということです。できる限り、多くの患者様の服薬情報を集めなければならないとすると、電話対応だけでは困難です。


国の方針でも薬局のDX化、IT化を推進していますが、やはり何らかのシステムを導入し、データがきちんと蓄積され、必要に応じてタイムリーに情報提供できるかという点が薬局における準備として重要なところです。


みなさんの薬局では、投薬後フォローを恒常的にできていますか?お医者様との関係性を作る上で、患者様の服薬情報は最大の武器になります。そしてその情報をどれだけ多く持っているかもポイントになってきます。



まとめ

リフィル処方箋制度の導入が始まった今、総合病院を皮切りに、町のクリニックなどにもいずれ波は広がってきます。いざその波が近くまで来たときに備えられるよう、日頃から周りの動向や情報をキャッチし、お医者様と意見交換ができる関係を構築しておきましょう。


「これから先生のクリニックにも総合病院からの影響があると思います。そうなってくると先生も煩雑になってくることが想定されます。その分リフィル処方箋をうまく活用してください。しっかり受診勧奨や、必要があれば情報の提供をします。私たちを信じてください」と、ここまで言い切れる関係性です。


そしてその関係性を作るための最大の武器は、継続的な患者様への投薬後フォローと、情報提供の実績。これが新しく導入されたリフィル制度における、薬局としての準備のゴールイメージです。


薬局は今後、淘汰される時代に入ります。選定される時代です。その中で勝ち残るためには、患者様だけでなく医師からの信頼を得ることも必要です。時代は待ってくれません。ぜひ今日から取り組みを始めてみてください。


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