top of page

高齢者・生活習慣病患者への投薬後フォローアップ事例

更新日:2022年5月20日



2019年の薬機法改正により服薬期間中のフォローアップが義務化されました。

対物業務から対人業務」へと時代が変わる中、薬局・薬剤師としての在り方は大きく変化しています。


先日公開したコロナ感染症自宅待機者への投薬後フォローアップ事例(※)はご覧いただけましたでしょうか。


今回は高齢者と生活習慣病患者への投薬後のフォローアップに焦点を当て、前回に引き続き一般社団法人品川区薬剤師会の会長で、薬局を2店舗経営されている加藤先生にフォローアップのヒントを伺ってきました。


フォローアップが義務化されたのは分かっているけど、現実は余裕がなくあまり行えていない、どうすれば効果的にフォローアップできるのか分からない、そんなお悩みを持つ方の参考になると嬉しいです。

 

(目次)

 

加藤先生のプロフィール

・一般社団法人品川区薬剤師会 会長

・品川区にて「薬局しなやく」「エール薬局大井一丁目店」の調剤薬局2店舗を経営。



1.高齢者へのフォローアップ

まずは、高齢者への投薬後のフォローアップに関してです。

患者さんの中でも特に高齢者の場合は、多様な薬剤の問題や薬剤に関与する生活上の問題から薬剤師の必要性、投薬後のフォローアップの必要性をより強く感じます。


しかし患者さん側に立って考えてみると、もちろん病気の有無で差もありますが、電話されることに抵抗を感じられる方もいらっしゃいますし、認知症状、物忘れなどの影響から、”薬剤師のフォローを求めている”というニーズを感じないことが多いです。


薬剤師としては投薬後のフォローアップが必要だと考えるのに対し、患者さんからのニーズはそうでもない。そんな中で、高齢者の患者さんを取り巻く「多職種の必要性」という点に着目しました。


多職種との連携

ご高齢の患者さんの場合、切っても切れない関係として「介護保険」があります。介護スタッフやケアマネージャーなどご高齢の方に接する職種の方々にとって、服薬に関する情報把握は必要不可欠です。


情報があれば介護導入が必要かどうかの検討材料にもなり、医療上だけではなくて介護の面においても、薬剤師が持つ情報は必要であると考えられます。


服薬報提供料2の「疑義解釈」を振り返ると、2018年度の診療報酬改定にて、

 

問4)かかりつけ薬剤師指導料や在宅患者訪問薬剤管理指導料等を算定していない患者について、当該患者の介護にかかわっている介護支援専門員等からの求めに応じ、服薬状況の確認及び必要な指導の内容について提供した場合に、服薬情報提供料2を算定して差し支えないか。

答)患者の同意を得るなどの要件を満たせば、算定して差し支えない。

 

との記載があります。


つまり患者さんへ投薬後のフォローを行い、薬剤師は患者さんの情報を一元的にまとめたものをケアマネージャーや介護スタッフに伝えることができる、またそれを技術料として算定してかまわないという内容となっています。


投薬後フォローの重要性を考える上でも、地域包括ケアシステムの中には居宅療養管理指導料に入る前の患者さん、要介護支援を取るのか取らないのか、また取ったけどまだ使わない場合症状が安定しているのか安定していないのかという部分を、薬剤師がしっかりと服薬指導もしくは継続的な投薬後のフォローの中で薬剤師の業務を担ってくださいという内容の記載があります。


こういったケースでの投薬後フォローは地域医療をつなぐ大きなきっかけになり、かかりつけ薬剤師や在宅・居宅薬剤師につながるとても重要なものだと考えています。


今後の連携の形

ちなみに当薬局(薬局しなやく)ではケアマネージャーもしくはヘルパーさんが既に入っていて、大きな病院から自宅に処方箋が届いたときなどは、LINEで先に処方箋の写真を送って頂いてお薬を作ったり、もしくは伝えたい情報があればLINEを使ってコミュニケーションをとっており、高齢者である患者さんご本人がLINEを使えなくても、周りのスタッフにLINEを活用して頂きサポートをお願いすることで、より有効な情報の連携ができています。


今後はさらにLINEを活用し、例えばケアマネージャーさんとヘルパーさん、薬剤師がLINEグループなどでコミュニケーションを取ることが可能になると、介護保険に入る前から情報の共有ができ、より良い連携の形が取れると考えています。


2.生活習慣病患者へのフォローアップ

次に、生活習慣病患者へのフォローアップです。


生活習慣病は中高年層に多い疾患、すなわち生産年齢人口に多い疾患ということで、仕事で多忙な患者さんが多く、なかなかコミュニケーションが取りづらい事があります。


また無自覚・無症状の疾患も多い事から、受診間隔が空いてしまったり、患者さん自身が薬の効果を感じにくく飲み忘れが発生したり、2次エンドポイントへの理解も薄いことが多いです。


「なぜ自分はこの薬をのんでいるのか」という意識が薄れがちで、例えば高血圧から心筋梗塞や脳梗塞に繋がってしまうこと、最悪の場合は死亡例にも繋がる可能性があることなど、生活習慣病や自身の体への理解が欠けていった結果、その場その場で判断してしまうアドヒアランスの低下が見られることから、薬剤師として感じる部分は多々あります。


そういった意味で生活習慣病患者への投薬後フォローは必要性を強く感じるのですが、高齢者のケースと同じく患者さん側からのニーズという視点で考えると、忙しい日常の中で電話でのコミュニケーションは非常にハードルが高く、中高年層の生活習慣病はフォローアップ自体、障壁が多いと感じます。



フォローアップの重要性

しかし、例えば糖尿病の治療をしている患者さんが低血糖を起こして交通事故を引き起こし、人が死んでしまったという悲しいニュースなども実際にあり、フォローアップへの障壁が多いからと諦めるのではなく、私たち薬剤師もしっかりと責任を持ち生活習慣病の治療に関与していかなければならないと感じています。


品川区で勉強会をする際にも、医師から糖尿病患者の交通事故の話はよく出て来ます。交通事故で死亡した方のご家族が、事故を起こした原因として医師もしくは薬剤師が低血糖のリスクについてきちんと指導していなかったのではないか、という内容で実際に民事訴訟を起こされたという話も伺っています。


患者さんの健康や生活を維持するという点はもちろん、事故や訴訟問題などのケースも含め最悪のことが起きないように常日頃から投薬後のフォローアップをしていくことはとても大事です。今回、調剤後薬剤管理指導料加算の見直しで点数が倍増になった背景から考えても、投薬後フォローの重要性は感じられます。


糖尿病の患者さんには、低血糖のリスクは交通事故のリスクにも繋がるということであったり、抗凝固剤であれば再梗塞のリスク、死亡にもつながる可能性があるということなど、退院後や薬を変更したタイミングでは特にフォローアップを積極的に行う事は効果的だと考えています。


求められるITの活用

但し、前述した通り患者さんご自身は仕事や家庭の状況によって多忙な場合が多く、なかなか日中の電話で体調を聞いたりフォローアップを行うというのは非常にハードルが高いです。


こういった部分を解消すべく、実は国からITを活用しましょうという指針が打ち出されていて、診療報酬改定でも前面に出ています。


ITと言ってもすべて把握しきれないくらい様々なものが開発されていますが、しっかりと患者さんも含め利用していくことを考えたときには、「LINE」などすでに大衆に認知されていて、ある程度普及しているものが良いのではないかと思っています。


実際に私たちは、高血圧等の基礎疾患があって心筋梗塞での入院、もしくは大動脈解離での入院、こういった経歴がある患者さんに対しLINEを使ってのフォローアップを行っています。


当薬局では「あなたの調剤薬局」のシステムを導入しているので、LINEを登録してくれている患者さんには自動でフォローアップを行ってくれるのですが、最初に一律的なメッセージが送られた後は私たちが日常で使うLINEと変わりません。


退院後の薬剤服用の支援として、本当に薬が飲めているのか、もしくは副作用の確認で出血や歯茎の腫れが無いかを確認しています。


LINEでフォローアップを行ったある患者さんが、エフィエントとワーファリンで歯茎の腫れが出てしまい薬剤が変更になったケースもありますし、今はだいぶ落ち着いてきましたが動悸があるという答えもありました。



患者さんの反応

LINEは一度やり取りが始まると患者さんご自身も慣れてくるので、患者さん側から問い合わせをして下さることもあります。例えば「血圧は安定していますが、動悸がまだあって…」という体調の報告や相談をしっかりと行ってくれるようになりました。


フォローアップを行う上で、電話だけでなくこういったITツールを活用することは、患者さんにとってもメリットが大きいと感じます。


お薬をもらう時には顔を合わせてフェイストゥフェイスで話をし、それ以外のところではLINEなどの気軽なツールを使ってコミュニケーションをとる、この組み合わせが良い効果を発揮していると思っています。


3.まとめ

投薬後フォローアップは、前提としては「薬の適正使用のために必要と認める場合」に行います。


薬剤師が薬の適正使用のためにフォローアップが必要だと感じても、患者さんにとってストレスになってしまっては意味がありません。電話、LINE、メールと患者さんにうまく合うやり方を見つけながら、投薬後のフォローアップをしてください。


ただし、投薬後のフォローアップは実際にはすごく時間がかかります。

他のスタッフとの協力も必要ですし、業務中のどんな時間帯にすれば効率がよいのか、患者さんと薬剤師の双方にとって負担が減らせるのか、そういった背景を考えるとITツールの活用は避けて通れません。


ITツールは使われるのではなくて積極的に学び、有効活用して行くというところが大事です。


実際にフォローアップをする際には、その患者さんへ質問する内容やお伝えする事柄をあらかじめ決めておいて、それに関連する情報も提供できるように準備しておくことをおすすめします。


今回診療報酬改定がありましたが、投薬後フォローはいろいろな技術に関連しています。

ただ診療報酬のことばかりをベースに考えると、なかなかうまくいかないものです。


大切なことは純粋にその患者さんを思う気持ち、この患者さんにとって必要があるからフォローするんだというマインドがとても大事です。


今回この記事を読んでくださっている経営者や店舗責任者の薬剤師先生には是非お願いしたいのですが、薬剤師目線でフォローアップが必要だと感じる患者さんがいたら、ぜひフォローアップをやらせてあげて欲しいのです。おそらく、そこからたくさんのことが見えてくると思います。


通常の治療において、副作用の発生はだいたい5パーセント未満です。約90パーセント以上の患者さんは治療がうまく行くというのが大前提。そんな中で私たちはその約5パーセントを見つけていかなければならないのです。


常日頃から患者さんを大切にしながら、万が一のことが起きた時もしっかりとサポートできる、そんな医療チームであったらその薬局・薬剤師は本当に素晴らしいと思います。



フォローアップを行う上で大切なこと

大変なことも多い投薬後のフォローアップですが、まずは点数どうこうではなく投薬後のフォローをする中で見えてきたものが、結果としてこんな点数につながるんだという流れで捉えていただくと、薬局のスタッフ、チームも前向きに感じてくれるのではないかと思います。


私自身が投薬後のフォローをやってみて思ったのは、やはり患者さんや医療スタッフからの信頼を得られる部分が、やりがいにも大きく繋がるということです。信頼を得たくてやるわけではないですが、やってみた結果として信頼に繋がったという実感があり、そこからまた違った世界も広がります。是非やってみてください。


但し忘れてはならないのは、実際に薬を飲むのは患者さんであり、起きている症状を感じているのもまた患者さんです。私たち薬剤師にとって些細なことであっても、患者さんにとって不安なこと、気になること、解消したい悩みがあれば、その気持ちに寄り添う姿勢を忘れないでください。


患者さんが悩みを気軽かつ簡単に相談できる環境を整え、1人1人と向き合っていくことは、今後の薬局・薬剤師としての在り方を考える上で非常に重要です。

薬局での業務も多岐に渡りますので、まずはLINEをはじめとするITツールなどもうまく活用しながら、ぜひ投薬後のフォローアップを積極的に行ってみてください。




bottom of page