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コロナ感染症自宅待機者への投薬後フォローアップ事例

更新日:2022年5月12日



令和2年9月より義務化された服薬期間中のフォローアップ。

施行から早1年半が経過しましたが、皆様の薬局では患者様へのフォローアップは十分に行えていますか?また、患者様との信頼関係は築けていますか?


今回、一般社団法人品川区薬剤師会の会長でもあり、薬局を2店舗経営されている加藤先生にフォローアップを行う上で実際に起きた問題やその結果、また現在に至るまでどのように環境が変化したのかを伺ってきました。

 

目次


 

加藤先生のプロフィール

・一般社団法人品川区薬剤師会 会長

・品川区にて「薬局しなやく」「エール薬局大井一丁目店」の調剤薬局2店舗を経営。



投薬後のフォローについてのおさらい


まず初めに、薬剤師の皆さんにとって周知の内容かもしれませんが、投薬後のフォローアップについて今一度おさらいをしてみたいと思います。


投薬後のフォローは、正式には「薬剤使用期間中の患者フォローアップ」という内容で、2019年の薬機法改正にて改正・公布されました。


この薬機法改正は、「国民のニーズに応える優れた医薬品、医療機器等をより安全・迅速・効率的に提供するとともに、住み慣れた地域で患者が安心して医薬品を使うことができる環境を整備するため、制度の見直しを行う」という趣旨があり、その中でも「住み慣れた地域で患者が安心して医薬品を使うことができるようにするための薬剤師・薬局のあり方の見直し」という部分から「薬剤師が調剤に限らず、必要に応じて患者の薬剤の使用状況の把握や服薬指導を行う義務」、すなわち投薬後のフォローアップが法制化さたというものです。


この法改正の背景にはご存じの方も多い「2025年問題」があります。

日本が今後ますます高齢化の時代を進む中で、地域単位でいかに医療・介護・生活を維持できるかという課題において、薬剤師が継続的に投薬の状況を確認することの重要性は実は法改正以前からすでに言われていました。


薬剤師が、地域包括ケアシステムを担う一員としてどのような働きをするべきか、という議論の中において構築された法制度だったのです。


また、平成27年10月23日に厚生労働省より発表された「患者のための薬局ビジョン」においても既に、薬学管理として「服用歴や現在服用中の全ての薬剤に関する情報を一元的・継続的に把握し~」という言葉が明記されています。

今から約7年も前に発表されたこの資料において、既に薬局・薬剤師の先生方には投薬後のフォローをお願いしたいという内容が記されていたのです。


またさらに遡ると、高齢者の残薬の問題も大きな議論となりました。

医師や薬剤師が薬の服用状況について確認を行った際に、患者様からは「飲めています」と返事があったものが、実際には飲めておらず大量の残薬が発生していたという問題です。

新聞やマスコミなどの報道でも大きく取り上げられたので、記憶に新しい方も多いのではないでしょうか。


国が負担する医療費がひっ迫する中、そして何より患者様の健康を維持する上で、こういったことを繰り返さないためにも私たち薬剤師が今後、患者様の薬剤使用中の状況を確認・把握する重要性は増しています。


薬機法の改正を機に義務化され始まった投薬後フォローですが、そこに辿り着くまでの背景を見ていくと、いかに重要な役割なのかを理解して頂けると思います。


実際にあったフォローアップ事例

それでは次に、実際にあったフォローアップの事例を紹介して行きたいと思います。

今回は新型コロナ感染症自宅待機者へのフォローついてです。


投薬後のフォローアップは、患者さんに薬剤師の必要性を感じてもらうという点がとても重要です。コロナ感染症は新規の患者さんが多く、また患者さん自身にとっても初めて経験する疾患という部分で、薬剤師として求められる部分が大いにあります。


新規の患者さんの場合は、基礎的な情報の収集を行った上で、体調によっては食事が取れていないなど生活の状況が変化しているケースが多いため、そういった影響を受ける薬剤には注意が必要です。


ラゲブリオについて

まず、今回新規で取り扱うラゲブリオに関してです。

既に病院内などでは使用されていますが、薬剤師としては初めて使う薬剤であるため、投薬後は状況を確認する必要性があります。


併用薬への注意

またラゲブリオへの注意の他に、併用薬への注意、高血圧や糖尿病、生活習慣病などの治療薬を飲んでいるハイリスクの患者さんへは、薬剤の総量にも注意することが大切です。


実際に、患者さんが服薬の状況を医師に伝えていなかったことが、フォローアップによって分かったケースがありました。


感染症にはカロナールがよく処方されますが、この患者様は低用量ピルの服薬を医師に伝えておらず、カロナールとピルを併用して飲んだ場合にカロナールの作用低下、そして低用量ピルの作用増強が発生しうることを考え、投薬後フォローの中では低用量ピルの副作用に注意しながら、状況の確認を行いました。


またフォローアップによって分かった情報を服薬情報提供という形で医師に伝えることで、診察をする際にはコロナ感染症だけではなく、併用薬の副作用もチェックすることができ、医師にとっても患者様にとっても重要な情報となります。


薬の効果・副作用の確認

フォローアップの中で薬の効果を確認することも非常に大切です。コロナ感染症においては吸入薬の処方が多く出ており、その使用状況を患者様に確認していく必要があるのですが、実際に行ったフォローアップの中では、症状が改善したのち自己判断で服薬を中止していたという例もありました。


コロナ感染症は時間の経過とともに表情がコロコロと変わるような疾患で、「薬剤をしっかりと飲む」「症状を確実に減らしていく」ということが重要です。

そういった点からも、薬が効いているか、また患者様が自己判断で服薬を中止していないかの確認を行い、薬剤師というプロの目線から状況を把握しフォローアップすることは、コロナ禍の今、薬剤師として最も求められている役割の1つと言えるでしょう。


薬物アレルギーと副作用

次に、アレルギーに関してです。当薬局では桔梗湯とカルボシステインの2例を経験しました。こういったアレルギーの場合は、薬剤の中止だけでなく、アレルギー症状への治療を医師と共同に進めていくことが必要です。


副作用に関しては当薬局はラゲブリオで3例の副作用を確認できています。2例はお腹が緩くなるという消化器症状でしたが、自制内だったためフォローアップを行いながら継続治療という流れになりました。


もう1例は足裏のしびれと足首の下のむくみで、これは医師よりも先に薬剤師がフォローアップをしてわかった副作用だったので、すぐに医師に情報提供することで次の治療に繋げることができました。


こういったアレルギーや副作用、前述した服薬状況の伝え忘れは、患者様の体調を左右する重要性の高い情報でありながら、薬剤師がフォローアップすることで知れるケースも多く、投薬後に継続してフォローアップを行う重要性を改めて実感しました。


患者様の変化

投薬後のフォローアップを行う中で、患者さんの方からもアクションがありました。


「処方薬で当初の症状は改善したけど、ほかの症状が出てきた。」もしくは、「薬はきちんと服用しているが、なかなか改善されない」といった相談です。


こういった相談に関して、本来であれば医師や状況によっては保健所に連絡、相談というのが望ましいかと思いますが、実際には誰に相談して良いか分からず不安を抱えたまま我慢しているという患者様もいらっしゃいました。


とある患者様は、実は医師に伝えていなかったが副鼻腔炎のオペ経験があり、その時に似た症状があるという内容で相談のお電話を受け、お話していても鼻詰まり感が非常に強いことが分かるような状況でした。こちらからは改めて医師への治療提案を行い、結果としてコロナ感染症と副鼻腔炎の治療を並行して行うことができました。


患者様からの相談は体調に関してだけでなく、例えば「保健所から電話がかかってこない」、「いつどうしたら自宅待機が解除になるのか」、「自宅待機中に食事やパルスオキシメーターが手に入らない。どうしたらいいのか」など、コロナに関連した幅広い相談を受けています。


治療やお薬に関すること以外にも、患者さんが不安に感じていることに耳を傾け、可能な限りお悩み解決へのサポートを行うことで、結果として信頼関係の構築に役立つということが経験できました。


信頼関係の構築

今回、フォローアップをする中で、「信頼」に繋がったと感じたケースがいくつかあります。


当薬局の門前クリニックはコロナ感染症の治療を行っていないため、コロナに関する処方箋は他の医療機関から来ることが100%なのですが、この薬局が自分をフォローしてくれているという情報が、患者様サイドから私たちの想像以上に担当医師に伝わっていることを感じました。


医師や医療スタッフの方々からフォローへの感謝を頂いたり、他の患者様の紹介につながったケースもあります。門前ではない医療機関の医師やスタッフの方々との風通しの良い良好な関係ができ、コロナ患者様の動向や治療経過の共有にも活かすことができました。


実際の例として、80歳代のラゲブリオを投与した患者さんがいたのですが、毎日きちんと飲めているのかをフォローしてほしいという依頼付きで処方箋を頂きました。私たちが日頃から行っているフォローアップが信頼につながり、結果として新たな患者様の獲得にも結び付いた形です。コロナ感染症流行前は関係が希薄だった医療機関の先生からも、こういった日々の積み重ねから、今では薬剤や保険の相談なども多く頂けるようになりました。


直近のCOV自宅待機者への処方箋は、今年(令和4年)1月72件、2月151件、3月87件という数を取り扱いさせて頂き、こちらから医療機関に売り込みに行ったり営業をかけたことは一切無い状態でたくさんの処方箋を頂けたことを考えると、やはりフォローアップを通して多方面から信頼を得た結果と感じています。


患者様からの感謝

患者様へは、薬局で得られた経験や行政情報を提供したり、フォローで得た内容に関しても担当医師に伝えておきますよ、と伝えることで「安心した」などの感謝の言葉をいただきました。


2月3月は若い方のコロナ感染も多く、ある20代一人暮らしの方の場合は、フォローのご連絡をすると、「またお電話してくれませんか」といった再度のフォロー依頼を頂くケースも散見されました。

病気にかかって一人で不安な生活をされている中で、薬剤師からフォローアップは患者さんにとっても大きな安心感つながったのではないかと思います。


治療終了後に薬局に来てくださって、ご丁寧にお礼を言ってくださる患者様もいらっしゃいました。普段から服薬している慢性疾患の処方箋を、「今後はこの薬局でお願いします」とご依頼を頂いた例もあります。


まとめ

投薬後のフォローを丁寧に行った結果、処方箋枚数や患者数の増加にもつながりました。

そしてなにより、患者様の支えになれたこと、医療機関からの信頼に繋がったことは、私たち薬剤師・薬局にとって非常に価値のあることだと感じています。


法改正により義務化されたからフォローするのではなく、薬剤師としての在り方を今一度見つめなおし、患者様や医療機関との信頼関係の構築を目指してみてください。

きっとこれまで以上に薬剤師としての価値を見出せるはずです。


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