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高齢者施設の開拓ノウハウ

皆様の薬局では、在宅への取り組みはどのような状況でしょうか。地域支援体制加算の枠組みが大きく変更となった2022年の調剤報酬改定。実績要件をクリアするべく、在宅への取り組みを強化したいけど上手くいかない、そんな薬局・薬剤師先生も多いのではないでしょうか。


またチェーン展開をしている規模の大きい薬局店舗などは、個人在宅ではなく施設を開拓していきたい、というところもあるかと思います。しかし現実は開拓ハードルが高い…そんなお声もよく耳にします。


そこで今回は、施設の開拓をどう行えばよいのかに焦点を当てて、ご紹介したいと思います。


先日の公開した記事では、個人在宅の開拓ノウハウもご紹介していますので宜しければ合わせてご覧ください。



 

目次

 

施設開拓のターゲット選定

まず施設を開拓していくにあたり、対象となる施設に目星をつけていく必要があります。薬局から距離が近い介護施設はもちろん、新規で開設される介護施設も対象となってきます。


しかし施設にも様々な規模のものがあり、自分たちの薬局ではどこまでの規模の施設に対応ができるかというところは、事前に考えておかなければなりません。


対応できる人数が20名以内であればグループホームやケアハウス。ある程度、薬剤師先生の人数がいてもっと対応できるということであれば30名以上の有料老人ホームや特別養護老人ホーム、こういった施設がターゲットを選定する上で対象となるかと思います。


日本医師会の地域医療情報システムのウェブサイトにアクセスすると、地図付きで日本全国エリアごとの病院や在宅医療医、介護施設などの数や位置が確認できます。こういった情報を参考にしながら、対象となる施設を確認することから始めましょう。


施設の特長

次に、それぞれの施設が持つ規模や特徴についてのおさらいです。


まず最初にグループホームです。グループホームは認知症や高齢者に特化した小規模の介護施設で、原則として定員は最大18名となっています。数ある施設の中では規模が最も小さいので、そこまで大きい施設だと対応しきれないという薬局やはじめての施設開拓においては、グループホームから営業してみるのも良いかと思います。


次にケアハウスです。軽費老人ホームの一種で原則個室となっており、安価な介護施設です。定員は原則20名以下と、こちらもそこまで大きな規模ではありません。


最後に有料老人ホームです。介護付きの有料老人ホームで、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)などがあり、施設規模は比較的大きいです。


またその中でも特別養護老人ホームは、在宅での生活が困難になった原則65歳以上で要介護度3以上の高齢者が入居でき、原則として終身に渡って介護が受けられる施設です。但し特別養護老人ホームに関しては居宅療養管理指導料の算定はできず、薬剤服用歴管理指導料③ 43点を算定する形となります。


ご自身の薬局規模や、薬剤師の人数・キャパに合わせて、どれぐらい規模の施設であれば対応ができるのかを計画する上でぜひ参考にしてください。



介護施設の開拓方法-外来からの発掘-

それでは、本題の介護施設の開拓方法についてご紹介します。あなたの調剤薬局では、基本的な開拓方法は大きく分けて三つあると考えています。


まず1つは外来からの発掘です。外来からの発掘におけるキーワード・キーパーソンは、ずばり「ヘルパーさん」です。


自薬局の患者さんの中に、施設のヘルパーさんが薬を取りに来ている場合があれば、訪問のニーズを聞き、介入を検討していくという流れが作れたらベストです。そこから他の患者様の紹介に繋がるケースもあったりするので、ヘルパーさんとの接点は施設開拓のカギを握ります。大切にしましょう。


介護施設の開拓方法-訪問診療医の先生への営業-

二つ目の方法は、訪問診療医の先生への営業です。

前述した日本医師会の地域医療情報システムなどを使って、近隣で訪問診療を行っている医師を探し、訪問・営業する方法です。先生がどちらかの介護施設に往診をされていれば、薬剤師として介入の余地がないかを相談してみる、また紹介してもらう、という流れが作れると良いでしょう。


とは言っても、多くの方が苦労するところですが、医師との関係性がない中で、訪問診療医の先生をリストアップして突然訪ねて行っても、簡単に「紹介します」とおっしゃって頂けるケースは少ないでしょう。


そこをクリアするためにどうしたら良いかと言うと、「服薬期間中のフォローアップ」そして「服薬情報提供」への取り組みです。あなたの調剤薬局ではかねてよりより、服薬期間中のフォローアップから得られる患者様の情報や、服薬情報提供は薬剤師の皆さまにとって、大きな武器となることをお伝えしています。こういった武器(情報)を活用しながら、関係性をコツコツ築いていくというのが、医師との関係性を作る上で最も重要です。


訪問してすぐに「施設を紹介してください」ではなく、自分たちがどういった取り組みを強化しているのか、また先生の患者様を任せて頂いたときにどういったことができるのかを、まずはアピールして信頼関係を作ってください。


介護施設の開拓方法-介護施設への営業-

介護施設の開拓方法、最後のひとつは、純粋に介護施設への直接営業を行うことです。訪問診療医の先生への営業と同様に、まずは日本医師会の地域医療情報システムなどを使って薬局周辺にある介護施設を探します。その後、施設へ直接訪問・営業するという方法です。


新規にできる施設であれば薬局の導入ニーズを、すでに薬局が入られている場合でも、変更のニーズがないかを相談に乗りながら聞いてみましょう。



施設開拓のためのキーパーソン

ここまでどういったルートで開拓をしていけば良いのかをご紹介しましたが、各ルートで開拓に繋げるためのキーパーソンがいます。


それは、

・訪問診療を行っている医師

・薬局の選定を行っている施設関係者

・ケアマネージャー

・医療機関や介護施設のコンサルタント

です。


次はこのキーパーソンごとに、どういったアプローチを行えばよいのか解説します。


訪問診療医へのアプローチ方法

まずは訪問診療を行っている医師へのアプローチ方法です。


これは前述した通り、何よりも信頼関係の有無や濃さが結果に直結してきます。

服薬期間中のフォローアップや服薬情報提供、また日頃からのコミュニケーションにより医師の先生としっかり関係を作った上で、


・懇意にされている人はいますか?(ケアマネージャー、薬局、施設など)

・往診している施設はありますか?

・往診している人(個人宅)はどのエリアの方が多いですか?

・往診されているすべての患者さんから施設に関する相談はありますか?


などこういった質問を通して、医師が関わる地域包括ケアシステムを確認します。

そこから薬剤師は、施設開拓をどのように行っていくかという計画を立てることができます。


ただいずれにしても、しっかり医師との間に良好な信頼関係を作り、その上でヒアリングを行う、これが非常に大切です。


また薬局からアピールするポイントとしては、「24時間、日祝日の対応ができること」。これは当然、アピールしたくても24時間・日祝日も対応となると難しいという薬局チェーンも多いかと思います。それはそれで仕方のない事なのですが、逆にこれがしっかりできている薬局は、大きなアピールポイントとして施設の開拓においても役に立つでしょう。


また「臨時薬の即時対応ができる」こと、「調剤過誤がない、過誤が起きない機器を導入している」ことも、アピールできる強みとなります。


そして、既に医師が懇意にしている薬局がある場合には、何か困りごとがないかを聞いてみるのもひとつです。何度も記述しているように、ある程度の信頼関係を作り上げてからでないと難しいですが、対応が遅い、過誤が多いなどの問題が起きて不満や困っていることがあれば、まずは1件からでもやらせてもらえるよう提案し、その後の開拓にもつなげていきましょう。


薬局の選定をしている施設関係者へのアプローチ方法

では次に、薬局の選定をしている施設関係者へのアプローチです。施設に営業を行うにしても、まずは薬局の選定に関わるキーパーソンを探すことから始める必要があります。


実際に施設に営業をされている方からお話を伺うと、薬局を選定しているキーパーソンは核施設の施設長か、運営会社の本部営業担当の№2(実務担当)であることが多いです。


つまり施設長か運営会社の営業担当№2、こういった方々のところにアプローチができなければ、施設を開拓していくことができません。


こういった方々とお会いし、話を聞いていただけるとなったときには、

・懇意にされている周りの状況(医師・ケアマネージャー・薬局)

・施設の経営状況(例:医療法人がある、居宅介護支援事業所をやっている、別施設をやっている、など)

・施設の薬局の選定方法(選定時期、選定方法)

・現状で往診している医師がいるか(いれば、その後その医師のもとにも訪問する)

・施設の入居状況→入居者が集まっていなければ集客方法を提案する


を聞いた上で提案することが有効です。


特に施設の入居状況などをヒアリングすることができれば、患者様のご紹介が出来れば施設にとっては非常にプラスになります。現に個人在宅の患者様がある程度いらっしゃる場合は、いずれ施設に入られるというケースもあるかと思いますので、そういった患者様をご紹介できれば、これも薬局が持つ一つの機能になるので、ポイントとして押さえて頂けると良いかと思います。


また薬局の選定を行っている関係者に対してのアピールポイントも、訪問診療医への場合と同じく、

・24時間・日祝日の対応ができる

・臨時薬の即対応ができる

・調剤過誤がない、過誤が起きない機器を導入している

・薬の管理方法についての提案、見聞きした他社事例を紹介

などについてアピールすると有効です。


施設からのニーズがあった場合には、いつから開始できるかをすぐにすり合わせしましょう。新規開設の施設の場合は、入居者向けの説明会や薬の管理方法、必要な物品の用意なども必要となってきます。



ケアマネージャーへのアプローチ方法

次にケアマネージャーさんへのアプローチです。

ケアマネージャーさんの場合は、個人宅を受け持っている場合もありますし、介護施設もあります。また、所属されている居宅介護支援事業所とそれぞれしっかりと関係を作り、紹介してもらうのが有効です。


また、居宅介護支援事業所自体が介護施設を運営してる場合もあるので、そういった場合は前述した施設長や営業担当のNo.2の方に繋いで頂き、アプローチしていくというところも一つの方法になるのではないかと思います。


医療機関・介護施設のコンサルタントへのアプローチ方法

最後に、医療機関や介護施設のコンサルタントをしている方へのアプローチ方法です。

これはほとんどの場合、紹介してもらうのに費用がかかってくるので、参考までにというところですが、医療機関や介護施設のコンサルタントをしている方と繋がることができたら、マッチングを依頼することなどもできますので、コストをかけてでも取り組みを強化したいというところはぜひ参考にして頂ければと思います。


門前払いを回避する方法

ここまでをまとめると、アプローチするべきは施設外来、そして訪問診療の先生と介護施設というところですが、そうは言っても営業したところで最初から門前払いになるだけだ、そんな余裕ないというお話もよく耳にします。


そこで今回は、あなたの調剤薬局加盟店で実際に成功している取り組みについてご紹介したいと思います。


突然ですが、大分県の地域医療構想はご存じですか?

地域医療構想とは、日本全国の各地域がこれからの医療・介護体制がどうなっていくのかを様々なデータをもとにまとめた資料です。国はこれを元に各行政に予算をつけています。

webサイトで検索すると見ることができますので、ぜひ皆様の属されている都道府県の地域医療構想をチェックしてみてください。


その中で大分県の地域医療構想に注目したいのですが、実は大分県というのは健康寿命が日本一の県なのです。


男女別にみると男性の場合は73.72歳と日本一、女性の場合は日本一ではないものの76.60歳で4位という記録を誇っています。そんな中で大分県は健康寿命日本一を引き続き目指すべく、健康に対する様々な対策を打ち出しています。


当然地域ごとに異なる特徴があり、文化や生活習慣も違うので、各都道府県が打ち出している健康への取り組みは変わってくるのですが、実はひとつだけ日本全国全てにおいて共通するものがあります。


それは認知症対策です。つまり、この認知症対策については、行政を含めて様々な予算が必ず割り当てられているということなのです。

各都道府県下の市や町のレベルでも、一貫して認知症対策というのは地域医療の中で一番のポイントになっていて、そこをいかにアピールできるか、これが門前払いされないためのポイントなのです。



アートを使ったワークショップ

認知症対策のひとつとしてご紹介したいのが、アートを使ったワークショップです。薬局が主体となって、こういったイベントを施設に提案されてはいかがでしょうか。


「私たちの薬局は何ができるか」をいくらアピールをしても、そういったアピールは他の薬局も同様にされている場合が多く、差別化が図れません。


ですがアートを使ったワークショップなどのイベント、こういった取り組みをされている薬局はまだ少ないかと思います。


認知症への取り組みはSDGsへの取り組みにもなります。


 

持続可能な開発目標SDGs


3:すべての人に健康と福祉を

あらゆる年齢のすべての人の健康的な生活を確保し、福祉を推進する


11:住み続けられるまちづくりを

都市と人間の居住地を包摂的、安全、強靭かる持続可能にする

 

といった項目への取り組みです。


認知症対策とSDGsの何が関係するのかと言うと、このアートを使ったワークショップというのはソーシャルキャピタルの醸成に繋がります。ソーシャルキャピタルの醸成とは一体何かというと、「人間関係」の醸成です。


信頼関係や人間関係が強い地域では、健康寿命が長いという研究結果が出ています。つまり人と接すれば接するほど、認知症の予防にもなり長生きするということなのです。


薬剤師の先生がイベントのファシリテーターとなり、施設に入っている入居者の方々と一緒にアートを作ることによって、立場を超えて仲良くなれます。今までカウンター越しで向き合う関係から寄り添う関係に変化し、そこから健康相談会などを通じて処方箋をもらう、こういった流れを作ることが、ワークショップの開催によって実現できるのです。


実際にこのワークショップを行った中で、どのような効果があったのかと言うと、30件の高齢者施設へ飛び込み営業をされた薬局担当者が、8割の施設では門前払い、残り2割の施設は、話は聞いてもらえたが在宅獲得にはつながらなかったといケースがありました。


そこで施設の方に興味を持っていただける営業ツールが必要だと考え、SDGsへの取り組みにもなるということでワークショップの提案書を持って訪問しました。


認知症予防にはまず人と接すること、そして手指を動かすこと、また嗅覚や聴覚、視覚、こういったものがアートを作りながら刺激されることによって、認知症の対策になることを薬剤師として解説し、入居者の方々の認知症対策のためにもワークショップをやりませんかという内容で提案するのです。


そうすると、以前は8割の施設に門前払いされていたのが、この提案を行った10施設のうち8施設が話を聞いてくれ、さらにそのうち4施設が実施したいと好反応を示してくれたという例があります。


こういった他の薬局にない武器や切り口で施設に営業することで、施設側も受け止め方が全く変わってくるのです。結果としてこの薬局はワークショップへの参加者30名の中で、9名の処方箋を獲得するができています。


まとめ

ここまで、施設開拓のノウハウについてお伝えしてきましたがいかがでしたでしょうか。


個人の開拓とはまた着目すべき点が異なり、SDGsへの取り組みやアートを使った認知症予防のワークショップというのは、実際に営業活動に取り入れることによって、施設の開拓がより行いやすくなるのではないでしょうか。


また、地域医療構想によって行政は予算も組んでいますので、薬局×施設×行政での取り組みなども提案次第では行えます。ぜひご参考にしてください。


アートを使ったワークショップが実際にどういったものなのか、もっと詳しく知りたいという方は、下記のお問い合わせフォームからご連絡ください。


また毎週様々なテーマで薬局・薬剤師先生向けのオンラインセミナーも開催しています。在宅がテーマの回もございますので、気になる方はぜひご覧ください。


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